覚えていてくれてありがとう - 江草乗の「大人の物欲写真日記」

　私の勤務する学園の文化祭には大勢の来客がある。生徒の家族、卒業生、そして将来の生徒となるかもしれない小学生とその親たち、きっと受験前の下見に来るのだろう。そうした母親の一人が、かつて私が公立高校で勤務した時に教えた生徒だった。
　廊下を歩いているときに、むこうから歩いてきた来たご婦人が、私の顔をまじまじと見つめて、それから「○○先生ですか？」と私が公立高校にいた頃に生徒たちから呼ばれていた呼び名で尋ねてきたのである。私はびっくりしたけど、相手の顔をみてもその生徒時代が思い浮かばない。「○○です」と言われてやっと思い出せた。
　本名は忘れても、あだなは覚えていてくれたのだろうか？それとも親しみを込めてそう読んでくれたのだろうか。そんなことをふと思ったのである。あれから２０年以上の月日が過ぎているのだ。あれからすっかりとおっさんになってしまって、昔はイケメンで女生徒にもモテモテだったのが今はただの変なオッサンになってしまってるのに、２０年前のイケメンのなれの果ての姿をちゃんと認識してくれたことにちょっぴり感謝である。（ちなみに某所にはその２０年以上前の私の写真が公開されている。）
　私は大学を出てから１０年間公立高校の教壇に立っていた。その１０年間に直接教えたことがある生徒たちは約1500人くらいになるだろうか。その中には今もメールをやりとりしたり、年賀状を交換したりしている人もいる。昔は近鉄南大阪線に乗ると、必ず同じ車両の中に教え子やその親がいたことを思い出す。田舎教師の日々は今考えるととてもなつかしい時間だった。思い出すだけで心が癒される。

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