スワ氏文集
こんな面白そうな本が出ていたのか・・・
「スワ氏文集」の諏訪哲史さん 名古屋で刊行記念講演
朝日新聞名古屋本社版の地域総合面で連載中のコラム「スワ氏文集(もんじゅう)」が講談社から刊行されたのを記念して12日、作家の諏訪哲史さんが朝日新聞名古屋本社で講演した。300人を超す聴衆を前に諏訪さんは「小説と並行して真剣に書いてきたが、東海地区では諏訪哲史の名前よりスワ氏の方が流布する特殊な現象が起きている。同じ文筆活動であり、僕の多面的なカオの一つとして世に出したいと思ってきたので、出版は4年半越しの夢がかなってうれしい」と喜びを語った。
周囲の反響が大きいコラムの人気テーマベスト3を披露しながら、歌を交えてコラムを朗読。会場から「お上手ですね。これまでは、えせファンでしたが見直して本当のファンになります」との声が上がった。
タイトルに「文集」とつけたのは「文体をいくつでも変えられるから」と言い、「文体で読者の頭をゆさぶりたい。ネタは無限にあるので、新聞にこんな文章が載っているなんてありえないというコラムにしていく」と抱負を語って、大きな拍手を浴びた。
◇
講演の詳しい内容は以下の通り。
4年半越しの夢がかなって本になりました。並行して小説も、いや、小説と並行して真剣に書いてきました。本業は小説を書き、副業として大学で教えたり「スワ氏文集」を書いたりしてきましたが、この名古屋地区、東海3県においては、諏訪哲史という名前よりもスワ氏の名称の方が流布してしまうという特殊な現象が起きている。そういうこともあるだろうと納得もしているが、本の方は小説の方がどんどん刊行される。そうなると、副業とはいえ、やっぱり「スワ氏文集」も本にならないか、僕のなかでは同じ文筆活動であり、僕の多面的なカオの一つとして世に出したいと思ってきた。
表紙の装画は南伸坊さんに描いていただいた。この絵は南さんが名古屋のことを調べてくれて、野田末吉さんという人形作家が作ったまんじゅう食い人形です。どういう絵なのかとよく聞かれるので、夫婦仲は悪くても子はかすがいといいますが、親が「お父さんとお母さんとどっちが好きだ」とよく聞きますね、そのとき、賢い息子が「このおまんじゅうを二つに割って、右手のおまんじゅうと左手のおまんじゅうとどっちがおいしいですか。どっちもぼくは好きです」と答えたという、夫婦円満を表すおめでたい絵であると説明しています。
ところがみんな、絶対に「スワ氏まんじゅう」というダジャレだろと言う。何度説明しても言われるので、最近はそうだということにしています。
今日は非常に緊張しています。とにかく、ほかの講演でいつもやっている文学談義はやや抑えて「スワ氏」として登壇しなければいけないというプレッシャーですね。吉本芸人がグランド花月の舞台に立つようなものですからね。
僕の知り合いはほとんど「スワ氏文集」を読んでいます。小説より読みやすいですから。その反応を聞いていると、皆さんがお好きなのは、「婆(ばあ)さんと婆さんの会話」です。不動の1位です。1カ月に1回くらいは読みたいという声もあるが、そうなると、コラムは2人の婆さんに乗っ取られます。そうはしません。
僕は毎日、朝寝るのですが、寝るときに近所の婆さんがピーチクパーチクすずめみたいに話していてうるさいと文句を書こうと思ったが、あんがい面白いことをしゃべっているので書いた。そうしたら、「諏訪さんには悪いがこれまでで一番面白い」と言われた。このテーマで書くのは、1年に1回くらいの間隔でがまんしてもらいたいな、と思います。そうでないとどんどん増えて、乗っ取られますので。
2位は名鉄です。なんで名古屋の人は名鉄が好きなの? 名鉄でない人もいるでしょ。僕が名鉄の話を書くのは、もともと名鉄病院で生まれているというのが腐れ縁で、自分では忘れていたのですが、小学校の卒業文集で「将来、何になりたいか」というところで「電車の車掌さん」と書いた。名鉄に入社して研修で車掌をさせられたころ、昔の文集を見つけてきた親が「哲史、よかったね。夢がかなったじゃない」といい、文集をみせた。なりたくなかったとはいわないが、まさかかなうとは……。この夢がかなってしまったらもうあとの夢はかなわないのかと思って、それ以降を生きています。
3位は恐妻家ネタです。恐妻家ネタは書くと非常に賛同者が多い。みなさんが、自分で抑圧している感情を僕が代筆しているようなところがあるかららしい。「よくぞ言ってくれた!」というメールをもらいます。「恐妻会」を作ろうという声もあります。よくある「共済会」ではないです。かなり賛同者は集まるはずだと言われても、活動のしようがない。活動したらつぶされるから秘密結社みたいになってしまう。なかなかやりにくい。
「やさしさって何だっけ」の巻では、うちの妻はやさしいということを書いたつもりです。なんといっても1週間に1回、おかずを作ってくれますよ、ありがたい話だと書いた。うちのカミさんは僕の書いたものを読まないんですが、名古屋というところは恐ろしい、密通者というか密偵というか、そういうのがいたんです。カミさんがある日突然、口をきかなくなりまして、何か原因があると思っていろいろ聞いていくと、ある人から聞いたといわれました。それからかなりの間、僕は日清食品という会社にお世話になりました。
僕がこの巻で言いたかったのは、うちのカミさんは本当にすばらしく、かけがえのない妻であるということです。名古屋の男性は絶対に奥さんの欠点は存在しないと思っている。欠点は好意的な優しさととらえ直している。名古屋は嫁が強いところだと思う。奥さんを立てている。それは自分のなかの何かを押し殺しているのであって、それを長年の鍛錬で会得している。
「婆さんと婆さんの会話」にはモデルがあります。ああいう婆さんたちが僕の枕元からほど近い路上で会話しているのは現実のことです。婆さんの会話は面白い。爺(じい)さんと爺さんは会話の量が少ない、会話してもつまらない。婆さんと婆さんは、もう会話するなって言うほど会話する。
なぜか婆さん同士は、病院の待合室とかで張り出してある紙を見ながら「あーあ」と1人が言い、もう1人が「ほぉんと」と言えば「あ、同意してくれた」ということで、これが始まりとなって知らない人同士でもおしゃべりができる。僕は「婆さん同盟」と呼んでいます。
名古屋の女性はあまり名古屋の外に出ない。たとえば、うちのカミさんのように中村区に生まれ、中村区で育ち、西区に住んでいる。一歩もいままで住民票が名古屋市から出たことがない。そう育ってきた女性がいっぱいいます。だから、カミさんは年賀状の数が僕の3倍あります。小学校、中学、高校、大学、職場、みんなずっと友達。それで、同世代の人を見つけたら話しかける自信があるという。見知らぬ人でも名古屋を地盤にした共通言語があるので、「あーあ」「んーん」というだけで、もう無二の親友として会話ができる。
「爺さんと婆さんの会話」の巻は朝日新聞から依頼されて書きました。僕は依頼されて書くことはないが、このときは、朝日新聞で女優の山田昌さんと旦那さんの俳優、天野鎮雄さんの連載(「愛知に人あり」)が続いていて、その最終回に2人の会話を動画にしてネットに載せたい、ということになったが、脚本がないと2人はしゃべれないという。それで僕に脚本を書いてほしいという申し出だったので、山田さんは僕にとって名古屋弁の師匠というほどの人で、リスペクトもあって書きました。
動画はインターネット上で見ることができます。実は今日、山田昌さんと天野鎮雄さんがいらっしゃっていますので、ご紹介します。(山田さんと天野さんが起立し、会場から拍手)。
僕はインターネットに弱すぎて、拒絶反応があります。僕は携帯電話も持ってない人間ですが、それは困るとよく言われる。それじゃあ、黒沢映画にでてくるような昭和の時代の人はどうやっていたのか。公衆電話で電話したり、野球場で場内アナウンスで呼び出したり、いろいろやり方がある。あれでいいんです。
でも「それではいかん」といわれ、メールだけは覚えろと言われて、パソコンがうちにやってきて、僕はメールのやり方を覚えました。メールのなかに、URLというのがあって、これをクリックするとインターネットのページがぱっと開いて「ログインして下さい」と出てきた。ログインって何? そうしたらニュースで、遠くから知らない人にインターネットを支配されるという事件があるというのを知った。だから、僕が今日みなさんに訴えたいのは、ログインすると1カ月後に警察に踏み込まれますよ、ということです。ログインってなんのことか知りませんけど。
「スワ氏文集」はなぜこのタイトルにしたかというと、白居易の「白氏文集」がもとにありますけど、文を集めたものなら何でもいいという題にしておいたら書きやすいと思ったからです。文体をいくつでも変えて、落語で書いても、ギャル語でも、名古屋弁でもいい。小説でさんざん文体実験はやっていますが、コラムでできないかと考えた。
外国語とは、みなさんがふだんしゃべっている言葉ではない言葉のこと。僕にとって「スワ氏文集」は、みなさんに外国語を読んでいただきたいと思って書いている。「婆さんと婆さんの会話」はみなさんにとって母国語みたいなものかもしれませんが、あれだけディープに書くと、もう外国語みたいになりますね。漢文も、全部カタカナや誤字脱字だけの文もやりました。朝日新聞のなかでこのコラムだけは、新聞にこんな文章が載っているなんてありえないというコラムにしたい。
ふだん、みなさんが使わない文章を書くことが小説であって、同じことが「スワ氏文集」でもいえます。文体で皆さんの頭がゆさぶられるようなものが書きたい。それが第一。そこだけはずれずに行きたい。何を書くかは第二。ネタは無限にあります。メモ帳のネタが増えるスピードの方が、本文を書くスピードより速い。僕が死ぬときは、くだらないことがいっぱい書いてあるネタ帳が枕元にあって、ペンが転がっていて、僕が血を吐いている。その倒れていたところを白い線で囲んだ写真が、朝日新聞に載るでしょう。
(以下、質疑応答)
【質問】前に聴いた諏訪さんの講演会は体はギクシャクしたロボット状態で、中身も何にも面白くなかったんですが、今日は生き生きとして歌も歌われ、天と地くらい違った。今までは、えせファンでしたが本当のファンになりました。
【回答】8割がたは本業の(文学方面の)講演会なので、こういう講演会は珍しいと思ってください。
【質問】弟さんについて書かれていたが、弟さんに対する愛情を感じた。兄弟愛について、どのように考えていますか。
【回答】あのときは、僕のなかの頭の9割がた、弟が遠くに行ってしまうことで占められていた。これまで道化のように書いてきた弟が、台湾に永久に移住することになってしまって、1年に1回とか2年に1回しか会えなかったらもう死ぬまでに何度会えるのか、風呂のなかでシャンプーしながらそんなことを考えて、ぼろぼろ泣いたんですね。
うちの家は、きょうだいが仲が良すぎると言われるくらい仲がいい。妹の話もいずれ書こうと思っています。僕が結婚後のことですが、妹と2人でアイルランドを10日くらい旅行したんですが、うちのカミさんに、そんなに仲がよすぎて「あんたらおかしいんじゃないの」といわれたこともあります。
【質問】2007年に愛知県に引っ越ししてきて関東地方とのあまりの違いに戸惑っていましたが、連載が始まって、愛知の文化、言葉、気質を教えていただいて、この4年間かかって愛知になじめるようになりました。今回、本になったのがうれしくて、申し訳ないですが「スワ氏文集」しか読んでいませんが、想像したとおりの諏訪さんで、とてもうれしかったです。『アサッテの人』を買いましたので、読みます。
【回答】やっぱり東京の人は上品ですね。「パリジャンとパリジェンヌ」の巻で、ナゴヤン(名古屋の男性)は口を味噌(みそ)まみれにして矢場町から大須のコメ兵(ひょう)までいらん物を売りに行く男と書きましたが、実際は決してそのようなことはありませんので。ちょっとオーバーに書いています。
【質問】申し訳ないのですが、著書は1冊も読んでいません。私にとっての諏訪さんは、今日のような諏訪さんがすべてです。でもやっぱり本を読んでみないと、他の面がわからないと思い『領土』を手に取ってみたら、ページの縁が真っ黒だったので読む気をなくしたのですが、どんな意図があるのでしょうか。
【回答】小説は宝箱のような箱で、つまり図書館というのが宇宙で、その中にまた1冊1冊の本の箱宇宙がいくつもあるのが、本の世界だと思っていて、箱というイメージを出すために、箱入りの本にしようと思いましたが、値段が高くなってしまうのでやめました。それで、ページの端を全部黒くすると、本全体が箱のようになり、中を開くと黒い枠に囲われたページがあらわれて、その箱の内部に入っていくようなイメージになる。そんな作りにするためにページの枠を囲いました。
えー、それでは、ありがとうございました。
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