江草乗の「大人の物欲写真日記」

江草乗のプライベートな日常日記です。

くもりガラスのI LOVE YOU

 彼女に出会ったのは、オホーツク海に面した浜小清水のユースホステルだった。そのユースホステルのミーティングは、絵本の朗読で100万回生きたねこをそのときはじめて知ることになる。まだ大学3回生の夏である。

 宿泊者の中に、丸顔の髪の長い美少女が居た。なぜか、私が高校3年の時に片想いしたことのある女性によく似ていた。私は最初、てっきりその本人かと思って面食らったものである。さて、彼女をどうやって誘うのか。自転車で旅行していたのに私はなんと、レンタカーで一緒にドライブというプランを持ちかけ「一緒に回りませんか」と大胆にも提案するのである。彼女は同意してくれたのだが、なんと他のモテなさそうな男たちまで誘っていた。
「人数が増えた方が一人分が安くなるでしょう。」
二人でドライブしたかったのに・・・

 快調に裏摩周展望台、開陽台、屈斜路湖、美幌峠と回って、美幌峠の下りでなんと私はねずみ取りにひっかかって、29キロオーバーで一発免停という憂き目にあった。

 翌日、彼女は摩周湖へ、私は予定通りオホーツク海に沿って北上してサロマ湖へと別々の方向に行くことになった。私は向かい風と異常な暑さに苦しみ、サロマ湖ユースホステルではサウナのような室内で苦しんだ。冷房などもちろんない。翌日、当初の予定では紋別に行くところだったが、私は急遽、予定を変更して、サロマ湖の南の林道をまっすぐ越えて南下して北見経由で阿寒湖の方まで140キロ近く大移動することにした。彼女が摩周湖の次に野中温泉(オンネトー)に泊まる予定と聞いていたからだ。

 オンネトーユースホステルで彼女は私を見てびっくりしていた。「どうしてここにいるの?」「きみに逢いたいから」と私は言うわけもなく、「なんとなくこっちに来たかったから」と答えた。翌日、足寄で自転車を分解して列車に乗り込み、彼女と一緒に富良野へ向かった。

 翌日、大雪山に登るという彼女ともう一度別れ、旭川で再会することを約束して私は塩狩温泉に行く。二日後、旭川駅で再会し、一緒に札幌まで戻り、札幌のY子*1さんと三人でぜいたくに食事することになる。(実は、彼女とY子さんは同じ名前である)

 札幌から函館、そして青函連絡船に乗ってからも私は彼女といろんな話をした。彼女は「外に出ましょうよ」と誘ってくれて、誰もいないデッキのところから遠ざかる函館の街の灯を見つめた。そのときもしかしたら彼女は、私に告白するチャンスをくれたのかも知れない。しかし私は「寒いね〜」と彼女をうながして船室に下りてしまった。どうせ翌日は帰るだけ、最後の夜くらい一晩中語り明かせばよいものを、「そろそろ寝ようか」と私は告げ、結局別々の椅子でおたがいに寝入ってしまった。

 次の日の朝、特急白鳥(大阪行き)とみちのく(上野行き)は、同時刻に青森を出る。それぞれの列車に乗り込んでから私たちは曇った窓ガラスをはさんで向かい合うこととなった。私は窓に「I LOVE YOU」の文字を裏返しにして書いた。彼女も何か書いてくれたのだが、その文字は裏返しじゃなかったので読めなかった。考えてるうちに列車が動き出した。

 その後、私は彼女と一度だけ東京でデートしている。でも、それっきりでいつしか手紙の返事も来なくなった。あのとき、彼女がガラスに書いた文字はいったい何だったのか。東京で会った時、それを質問した私に向かって彼女は答えた。

「ごめん、忘れちゃった」

*1:12月10日の日記に登場しています