君住む街へ(その3・最終回)
初めての方は必ずその1(12/17の日記)からお読みください。
しかし、そうした運命はMにはどうだっただろうか。少なくともMは「男にとっての究極の性の快楽の相手」になることなんか求めていなかったはずだ。(いや、このように勝手に断定するわけにはいかないが。)私と出会った頃のMは、普通に結婚して平凡な母親になることを望んでいたのではなかったか。
自分の欲望のために、Mを快楽の道具にしたKに対して、私はもっと怒るべきではないのか。しかし、それがKの本意だったのだろうか。Kにはそういう愛し方しかできなかったのではないか。
普通の社会人である私はたぶん普通の結婚生活をMに与えられただろう。しかし、芸術家であり、孤高の存在であり、時に反社会的な存在であったKにはそういう愛し方しかできなかったのではないか。
「センセイは、Kがいなかったら私たちスンナリ結婚できたと言うけれどそれは違うと思う。Kがいたからこそ、私たちは結びついたのよ。」
Kの対極の存在として、Mはもしかしたら私を愛したのかも知れない。そして、彼女の最後の選択は、Kも私も選ばないということだったのかも知れない。もうMと逢えなくなって久しい今の自分には確かめる術はないが。
上野駅でMを見送って別れた時に私たちは3つの約束を交わした。
「ヨ−ロッパから私は無事を知らせるハガキをMへ出す。」
「二人とももう電話もしない。手紙も書かない。」
「お互いが結婚したときだけは、必ず知らせる。」
新大阪に向かう帰りの新幹線の中で、私はMと出会ってからの時間をゆっくりと思いだし、溢れる涙をサングラスの下に隠して、窓の外に流れる明かりを見つめていた。すべての物語が終わってしまったことを噛みしめ、私はぼんやりと思っていた。
「もうすぐヨ−ロッパへ旅立つのか。」
(これで恋愛博物館は終了です。この続きを読みたい人は白夜特急編をお読みください。)