江草乗の「大人の物欲写真日記」

江草乗のプライベートな日常日記です。

君住む街へ(その1)

初めての方は必ずその1(12/17の日記)からお読みください。

 Mと1年9カ月ぶりに再会してから1年の歳月が流れた。8月15日の諏訪湖の花火大会を見物した夜遅く、私はクルマを北へ数百キロの道のりを発進させた。君住む街へ……。Mに逢うために私は真夜中の道を疾走した。
 もしもあの日の約束通りなら、今頃は「結婚」という話になっていたはずだ。しかし、消息不明だったKが現れ、Mは私との話を白紙に戻してしまっていた。

 Mと待ち合わせたのは土曜日の午後だった。Mの父が勤務する所にたまたま私の大学の後輩が研修に来てて、私はその宿舎に泊めてもらうことになる。Mと半日いろんなところをドライブして、翌日は横手のお盆のお祭りを見学することにした。宿舎ではなんと私と、私の後輩O君、その友人、Mの4人で一緒にスイカを食べた。Mと私が、私の後輩を通じてつながっていたことも不思議な因縁である。

 横手のお盆は地元民だけのひなびた祭りという感じだった。私たちは城跡の小高い丘に登ったり、のんびりと街を散策したりして夜まで過ごした。駐車場までの暗い道でMは私に寄り添うように自分から手をつないだ。クルマに乗り込んで、かといって発進させるでもなく話していた時に急に雨が降りはじめ、だんだん激しくなった。雷鳴がとどろき、Mは私に身を寄せた。思わず抱きしめる腕に力が加わり、私は「このまま君を抱きたい」と言った。
 しかしMは許してくれなかった。夜遅くにMを家まで送り届け、途中で仮眠して私はクルマをさらに北へ走らせた。私が訪れたのは津軽だった。なぜか「斜陽館」の落書き帳を何時間も読んだ。

 秋になって私はMに手紙を書いた。

「このまま君を思い続けても苦しいばかり。もう君のことはあきらめるからぼくが書いた手紙をすべて返して欲しい。」

 もしもMがあっさりそれに応じたら、Mは私への思いを断ちきれるということだ。Mは手紙と、二人一緒に写した写真を全部返してきた。しかしその中には自分の記憶のある便箋が一枚欠けていた。出会った頃に私が書いた詩だった。電話で「あの詩は?」と質問した私にMは答えた。

「この一枚はわたしの宝物なのよ。センセイには返せない。」

 その一言で、私の心は再びMから離れられなくなってしまった。

 それからの私とMは2カ月に1通くらいの手紙を交わし、時折電話で話をした。そうして時はゆっくりと流れ続けた。

(「君住む街へ」(その2)へ続く)