江草乗の「大人の物欲写真日記」

江草乗のプライベートな日常日記です。

緑の日々(その1)

初めての方は必ずその1(12/17の日記)からお読みください。

 私の前から姿を消してしまったMから1年9カ月ぶりに突然の電話があった。インドに行くと言って消息を絶った恋人Kからは何の連絡もなく、待ち続けることの苦しさよりも、家を出て、働いて、そうして違った世界を体験したいという。秋田に引きこもっていても何も変わらないからと。
 ちょうど中間試験の頃で、昼までに終わるから時間には余裕があったし、私は久々の再会に胸躍らせ、土曜日に近鉄奈良駅前の噴水のところで待ち合わせた。当時私にはつきあっている恋人がいた。それはMが去ったあとに知り合った女性だった。しかし、「Mに再会できる」という幸福感に比べれば恋人を裏切ってしまうという罪悪感は小さなものだった。しかも「会う」だけでまだ裏切ると決めたわけではなかった。
 噴水のそばで小柄なMが待っていた。出会ったときと同じ彼女に会えて私はフィルムを思い出の時まで巻き戻したような充実感に満たされた。クルマを走らせながら思わずこう語ったものだ。
「こうしていると、昔、しょっちゅうデ−トしていた頃のこと、思い出すねえ。」
「センセイも、私とおんなじ気持ちだったのね。うれしい!」

Mは関西に来てから、短大時代のなじみのある京都で職安に出かけたりしたけど、まだ住所が決まっていないと話にならなくて、それで今度は住むところを探そうとしたら、今度は仕事も決まってないのに……と。
 どうもここまでの彼女の就職活動は不発のようであった。
 その日は、就職活動なんか考えずに「オフ」にしようと彼女は決めていたようで、二人で室生寺や吉野のあたりなどをドライブした。とても、楽しかった。(書くまでもないことだが。)その日は、一緒に泊まってもいいということだったので、とりあえず、電話でビジネスホテルのツインの部屋をキ−プしておいた。ツインで2万くらいなら、まあ妥当な線だろう。しかしMに話すと、
「高いよー。もったいない!」とのことだった。
じゃあどこなら安いのか。もっとも安いところというと、あの場所しかないではないか。そんなところへ、まだ間違いを起こすと決めたわけじゃないカップルが入っていったいどうするんだ。いいかげんにしろ。(笑)

 夜遅くまで、喫茶店で時間をつぶした後、二人はラ○シャト−と呼ばれるラブホへとクルマを乗り入れていた。私には不健全な気持ちはなかった。ただ、一夜の宿を求めただけである。Mは荷物を奈良の友人の下宿に預けてあったので、着替えもなく、備え付けのほとんど着ていないに等しい浴衣にシャワ−を浴びた後で着替えた。そして少し身体を離してベッドに横たわった。

「センセイ、ヘンなことしないでね。」 

Mはちゃんとこう告げた。私は約束を守ることにした。彼女から貰えたのはおやすみのKISSだけであった。蒲団に入ってからも二人であの夢のように過ぎた1カ月のデ−トの思い出なんかをあれこれと話した。2時間くらい語りあって、それから眠った。私は不思議とすぐに寝入ってしまった。

(しまった! 襲うべきだった。)

そう気付いたときはもう朝になっていた。

(「緑の日々」 その2へ続く