坂口安吾の思い出
はじめて坂口安吾を読んだのは中学生の頃だ。我が家には母が買った集英社の日本文学全集があり、その中にあった坂口安吾集には「桜の森の満開の下」「夜長姫と耳男」「白痴」などが載っていた。短編小説でも芥川龍之介や志賀直哉の作品が簡潔明瞭な文体で書かれていたのに比べて、坂口安吾は「なんだこりゃ!」と面食らったほど強烈なインパクトを私に与えた。
最後に愛する姫を刺殺する耳男に向かって姫は「愛する者は呪うか殺すかしないといけないのよ」と答える場面がある。我々が持っている道徳的な規範なんかふっとんでしまう破壊力がその作品にはあった。
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坂口安吾の妻であった坂口美千代が夫について書いた「クラクラ日記」は絶版になっていたはずだが、文庫で復刻されていたようである。私が愛読している「琥珀色の戯言」さんでその書評が書かれている。
「琥珀色の戯言」3月26日 「クラクラ日記」
私が医学部の受験から逃亡して京都大学の文学部に入学した理由は、人生にある意味絶望したからである。誰のためでもなく、自分の人生を利己的に自分自身の快楽のために生きたいと思ったからである。「放蕩無頼」という生を選択したかったからだ。旅をして、恋愛をして、いろんなものと出会って、日々をただ楽しみたかったからである。
もしも坂口安吾に出会っていなかったら、自分が京都大学文学部を選んだ理由の一つはなかったことになる。もしかしたら中学生の頃に坂口安吾を読まなかったとしたら、全く別の人生があったのかも知れない。
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