江草乗の「大人の物欲写真日記」

江草乗のプライベートな日常日記です。

寺山修司

 寺山修司の短歌を授業で取り上げた。

 

きみが歌うクロッカスの歌も新しき家具の一つに数えんとする


 この短歌は俵万智さんも「恋の歌100首」に取り上げている作品である。
 ただ、授業で扱うには適さないが、私は彼の競馬に関する詩が好きだ。

さらば、テンポイント


もし朝が来たら
グリーングラスは霧の中で調教するつもりだった
こんどこそテンポイントに代わって日本一のサラブレッドになるために


もし朝が来たら
印刷工の少年はテンポイント活字で闘志の二字をひろうつもりだった
それをいつもポケットに入れて
弱い自分のはげましにするために


もし朝が来たら
カメラマンはきのう撮った写真を社へもってゆくつもりだった
テンポイントの最後の元気な姿で紙面を飾るために


もし朝が来たら
老人は養老院を出て もう一度じぶんの仕事をさがしにいくつもりだった
「苦しみは変わらない 変わるのは希望だけだ」ということばのために


だが
朝はもう来ない
人はだれも
テンポイントのいななきを
もう二度ときくことはできないのだ
さらば テンポイント


目をつぶると
何もかもが見える
ロンシャン競馬場の満員のスタンドの
喝采に送られてでてゆくおまえの姿が
故郷の牧草の青草にいななくおまえの姿が
そして
人生の空き地で聞いた希望という名の汽笛のひびきが


だが
目をあけても
朝はもう来ない
テンポイント
おまえはもうただの思い出にすぎないのだ
さらば
さらば テンポイント
北の牧場にはきっと流れ星がよく似合うだろう





寺山修司『旅路の果て』より

今、このように競馬を語れる人がどれほどいるだろうか。

株式ランキング投票←ぜひクリックしてください