江草乗の「大人の物欲写真日記」

江草乗のプライベートな日常日記です。

夏の日(その12)

初めての方は必ずその1(12/17の日記)からお読みください。

 Mがいなくなって何ヶ月が過ぎ、自分の記憶の中ではその一ヶ月が本当にあったことなのかと不思議に思えるようになった。でも、その時間が確かに存在した証拠は、自分がMに逢う前に付き合っていた不誠実でわがままなコピーライターの恋人と別れてしまっていたという事実である。

 その彼女とはずいぶん後に梅田の街角で会ったことがある。そのときに私は女性を連れていたのだが、彼女は私たちを見るなりものすごい勢いで走っていった。「そんなもん見たくない」とでもいうかのように。

 数ヶ月が経って、自分はいつの間にか新しい恋人を作っていた。そんなに激しい恋愛じゃなかったけど、静かに時は流れ、自分はあの一ヶ月の記憶を徐々に忘れつつあった。

 新しい恋人と自分は一緒に旅行に出かけたり、コンサートに出かけたりした。

 そうしてMのことを忘れたように振る舞ったとして、ぼくは誰にも責められないと思う。だってMは何の約束も残さなかったし、永遠にぼくの前から姿を消したのだから。ぼくの中に残存するMの記憶がこれから何かを起こすだなんて、そんなことこれっぽっちも考えなかったから。


 時は静かに流れた。

〜その13に続く