単位未履修問題に関する私見
新聞を見るたびに学校数が増えているこの問題だが、愛媛県の愛光学園のように家庭科の授業をやっていなかったところや、芸術を全くやっていなかった学校なども出てきて、どうやら私が考えていた「ちょっと一部の科目をカットした」程度ではなさそうである。家庭科の授業や情報の授業は、受験に必要な科目の合間のオアシスみたいなもので、のびのびと学ぶことができてかえっていい気分転換になるのではないかと思うし、芸術がないなんてそれはおかしいだろうと思うのだが。
いちおう教育の問題に関しては深く語らないというのを日記のルールにしてるわけで、今回も軽く触れるにとどめるが、今回の問題を「あいつら、受験科目ばっかり勉強してズルやってるから罰として受験に関係ない科目の補講を受けさせるのじゃ」などと声高に主張する人には私は賛同できない。彼らは自分の意志でそうしたわけではなく学校の仕組みに従っただけである。その責任は生徒ではなくて学校にある。おそらく良心的な生徒が「ちゃんと単位を取得させてください」と主張してもそれは叶えられなかったのではないだろうか。
私の勤務する学校では情報も総合学習もちゃんと実施していて文部科学省の指導に忠実に従っていてそのおかげで今回の騒動に関しては当事者ではなかったわけである。だからといって世界史をちゃんと履修した生徒が、やらずに済ませた生徒に比べて受験上で不利益を被っているとは思わない。不利益とは本来学ぶ権利のある科目を履修させてもらえなかった生徒の側であり、彼らはその科目の受講を学校に要求できる立場にあるわけだが、もちろんそれは「権利」であるから放棄も可能なのではないか。それを「権利」と見るのか「義務」と見るのかでこの問題の見解は大きく分かれるのだと思う。果たして世界史を学ぶことは高校生にとって権利なのか義務なのかと。私は「権利」説を採るのだが、「義務」説を主張される方もいるだろう。私の「権利」説のよりどころは、その科目の知識をちゃんと身につけたかどうかと言う結果が問われないということである。極端な話、その授業を全部寝ていたとしても試験で合格点をとれば単位は「履修」とみなされる。現在の大検の問題がまるで高校入試に毛が生えた程度のやさしさであり、高校でちゃんと単位を取得する方がよほど難しいことを思えば、今回の未履修者には「大検」程度の試験を一発させてその合格をもって単位認定という方法もあるかなと極論を思う。
そもそも「履修」ってなんだろう。私は世界史や生物を履修したが受験科目には選ばなかったためにそれらの知識は本当に心許ない。「履修」がただ教室に存在していたら手に入る資格ではなくて、本当にその科目の内容に関して理解しないと得られないものなら（それが理想だが）、いっそ全科目を大学入試の必須科目にしてしまえばいい。家庭科も情報もだ。３科目入試の私大に特化した受験カリキュラムを持つ学校の中には、文系では英国社の３科目しかやらずにそれぞれ週に１０時間くらいやれるようなむちゃくちゃな時間割を設定していた学校があったのかも知れない。ここからは全くの冗談だが、いっそのことを表紙は世界史でも中味は数学なんて教科書を出せばどうなのだろうか。これは世界史ですが数学が学べます！というふうに。そんなのが教科書検定を通るはずがないのだが。実際に一部の学校では、時間割に「世界史」と書いてあるのに実際は数学の授業なんて所があったらしい。
３５０時間の補習を受けないといけない生徒もいるらしい。どうやってそんな時間を作り出せばいいのか。学校はその経費をどうするのか。１時間あたり3000円の非常勤講師でも１０５万円の経費が新たに掛かるのである。
文部科学省はレポート提出などで単位を認定するなど救済策を検討してるらしい。
実は私が高校３年生の時、政治経済の授業は週に１時間しかなかった。それはもしかしたら最低単位数を満たしていなかったのではないだろうか。今から思えばそんな気がするのだ。私は理科系のクラスに在籍したから社会科の時間数はそうやって犠牲にされていたのかも知れない。
私は今回の問題に対して批判や非難のコメントを語る気持ちはない。ただ、「受験に不要なことはやらなくてもいい」という風潮に対しては反発したい。芸術も家庭科もみんな含めて、学校で学ぶことには無駄なものは一つもない。学ぶことを受験のための「手段」として捉えるのではなく、学ぶこと自体に「目的」があるのだということを訴えたい。
今回、単位未履修となった高校生たちはみんな被害者だと私は思っている。どうか彼らにとっての最善の道が用意されるようにと願っている。しかし、どんな方法があるのだろうか。
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