江草乗の「大人の物欲写真日記」

江草乗のプライベートな日常日記です。

夏の日(その6)

初めての方は必ずその1(12/17の日記)からお読みください。

 恋愛というものは、多く好きになった方が負けである。初期のユーミンの曲に「少しだけ片想い」というのがあるが、それは少しだけ負けているという意味である。そういう意味で、いつも冷静にふるまえるMと、もう完全に我を忘れて自己を見失っている私を比較すれば、完全な敗北であった。毎晩のように電話をし、時間があれば長い手紙を書き、自分の持つほとんどの時間を私はMのことを考えて過ごしていた。もはや仕事どころではなかった。

 京都でのほんの1時間ほどの逢瀬のために、授業が終わればすぐにクルマをすっ飛ばし、それからまた渋滞と格闘して帰る毎日が続いた。Mは相変わらず、恋人であるKとも逢っているようだった。そう、一度だけ私はKを見ている。Mが私とのデートとKとのデートをダブルヘッダーで組んでいたことがあって、たまたま停めていたクルマの中から
寄り添って歩くMとKを見てしまったのだ。Kは熊のような大男だった。小柄でスマートで知性派の私とは全く違って巨体で凶暴そうな野生派・肉体派という感じだった。
(Kは当時34歳、絵描きのタマゴということを後に私は知る。)

 私の登場は、少なからずMとKの関係にも影響をあたえた。Mは、まるで地に足のついていないKの生活感のなさや、破天荒な部分に魅力を感じながらも同時に、「結婚生活」という日常を共にする相手としてはKに対して大いに不満を感じていたようだった。Mの父親が東大出の農林水産省の技官であったこともあり、「普通に大学を出て、普通の職業についた相手を結婚相手に選びたい。」という親の気持ちは強く、また、Mが短大で保育科にいたこともあり、M自身も「子育てをして、普通のお母さんになりたい」という気持ちが強かった。Mの気持ちが少しずつ揺れ始めた手応えを私は感じていた。

〜その7に続く