学生服の思い出
ニコッとタウンの自分の部屋を、教室風にした。そしてアバターの衣装を学ランにした。
考えると、最後に学ランをリアルで着たのは今から１０年ほど前のことになる。卒業式が終わって、卒業生や生徒たち、そしてその保護者が中庭でそれぞれ思い思いに写真を撮っていた。それをそばで見ている私の所に近寄ってきた、中学３年の時に教えたことのあるＭくんという生徒が突然こんなことを言い出した。
「先生、服を交換しましょう！」
たまたま私はそのＭくんと背格好が似ていたものだから。それは不可能ではなくて、私は学ランを着て、Ｍくんはスーツの上着を着て、２人並んで写真を撮った。その写真と後日、思いがけない形で再会するとは思わなかった。
Ｍくんは２０歳の時、山で遭難して亡くなった。大学に入学して２年後のことである。
新聞でその遭難の記事を読んで私はびっくりした。その名前を見て我が目を疑った。捜索は困難で結局遺体が見つかったのは４ヶ月後だった。チャペルで開かれたお別れ会の時、遺品のいくつかが展示され、アルバムの中に学ランを着た私とスーツの上着を着たＭくんの姿があった。Ｍくんのお姉さんから「卒業式に一緒に写真を撮ってくださった先生ですね」と声を掛けられた。自分がその写真を撮ったことなど忘れていただけに、本当に驚いたのである。
物書きになることを目指して大学の文学部に入学し、村上春樹の小説が好きだったきみの夢が断ち切られた２０歳のあの瞬間に、きみはいったい何を思ったのだろうか。冷たく暗い雪の中で何を思ってこの世に別れを告げたのだろうか。
そのお別れ会の時、チャペルにはＭくんが好きだったというミスチルの tomorrow never knows が流れていた。まさか自分の人生が２０歳で終わるなんて、きみは思いもしなかっただろうに。その歌詞の中に「人は悲しいくらい忘れていく生き物」だとある。でも、きみがこの世に存在したことを覚えてる人は大勢居る。そして私の記憶の中できみは色あせることなく、いつまでもそのままだ。さっきヤフーできみの名前を入れて検索してみたら、きみの写真が見つかったよ。
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