父と暮らせば５０（最後の外出）
父は半年かけて徐々に痩せ、徐々に弱っていった。最近はもう外出もほとんどできず、いつも家でテレビの前にいて一日過ごしていた。
「悪寒がするらしい」という妻からの電話を受けたが、仕事がたてこんでいて帰宅したのは２１時過ぎ、そこで父の顔が赤いので熱を測ると４０度もある。私はあわてて救急車を呼んだ。
胸水がたまって肺炎を起こしていたらしい。もうかなり危険な状態である。それで入院ということになったのである。
今は病院に付き添って書いている。さっきお見舞いのリンゴをむいた。ナイフでリンゴの皮むきなんてしたのは何十年ぶりだろう。それを１／４父に食べさせて、私は残りの３／４を食べた。父はもう家には戻れないかも知れない。医師からはそう伝えられた。心の準備を・・・と。そういうわけで、私が今こうして父の横で過ごしてるのは、もしかしたら最後の親子の時間かも知れない。父は「桜が咲くまで生きられるかな」などという。そして「西行みたいに最後に桜を観たい」と言う。そういえば「お正月まで生きられるかな」と好物の数の子を何度も食べていたっけ。結局お正月は迎えられたし、餅も食えたのだが。桜はどうだろうか。
次々とお見舞いにやってきた親戚たちが去った後、父は「みんなに最後に会えたなあ」とつぶやいた。
去年、父をお花見に連れてきたのはどこだったかな。
補助ベッドで眠るのだが、３０分おきくらいに父は尿意を訴えるので、そのたびに溲瓶を出して排尿補助である。眠れないぜ。
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