アメリカでは職業に貴賤がある
「おまえなんか一生マクドの店員だ!」
こんなことを言えば、それは大変な差別発言になってしまう。日本では絶対に言えないし、マクドナルドに買いに行った時に見えている店員たちのあの働きぶりを見ると、あの仕事をこなすのは大変なスキルだと思うのである。しかし、アメリカには全く違った価値観がある。日本よりもある意味はるかに学歴偏重社会であるアメリカらしいとらえ方がここにある。
米国では「努力しないと一生マクドナルド店員」は差別でない
NEWS ポストセブン 6月16日(木)7時7分配信
おぐにあやこ氏は1966年大阪生まれ。元毎日新聞記者。夫の転勤を機に退社し、2007年夏より夫、小学生の息子と共にワシントンDC郊外に在住。著者に『ベイビーパッカーでいこう!』や週刊ポスト連載をまとめた『アメリカなう。』などがある。おぐに氏が、アメリカの「職業意識」を解説する。
* * *
息子がある日、いった。
「中学の理科の先生がね、『しっかり勉強しないと、大学に行けないわよ。そしたらアンタたち、一生、マクドナルドでハンバーグを焼き続けるか、スクールバスの運転手になるしかないんだからね』って、クラスの皆に説教したんだよ」
私は、びっくり仰天! それって「職業差別」じゃないのよっ。
だいたい、特定の企業を名指しするなんて失礼千万だし、教育者がスクールバスの運転手を生徒の前で見下していいの? そんなことだから、スクールバスの運転手をバカにし、反抗的な態度を取る中学生が後を絶たないんじゃないの。今回ばかりは、捨ててはおけないわ……。
そんなわけで「先生、子供には『職業に貴賤なし』と教えてください!」と、学校に手紙を書きかけた。途中で「日米で職業差別に対する考え方が違うのかも」とチラリと思ったのと、そもそもビミョーな話題について上手に抗議できるほど、英語力に自信がなかったもんで、結局あきらめちゃったんだけどね。
後日、アメリカで公立校の教師をしている日本人の友人に聞いてみた。「どう思う? こんな発言ありえないわよねーっ!」と。
ところが彼女は平然というのだ。「スクールバスの運転手、ってのは初耳だけど、『勉強しないと、マクドナルドでハンバーガーを焼くだけの一生よ』ってのはもう決まり文句よ。私は使わないけど、教師仲間でも平気で使う人、結構いるわよ」。
そ、そうなのっ? 少なくともタテマエでは、日本なんかよりずっと人種差別に厳しい国なのに、どうして、職業差別はOKなわけ?
友人が説明してくれた。「どんな仕事を得るかも、年収をいくら稼げるかも、本人の努力の結果、と考える国だからね。『一生涯、ファストフードの店員』なのは本人の責任であって、彼らを見下しても差別とは見なされないのよ。だいたい『職業に貴賤なし』なんて、アメリカじゃ誰も信じてないかも……」。
うーん、確かに、高卒より大卒、大卒より大学院卒のほうが年収が高いこの国の現実を「学位偏重社会」と批判する人なんて見たことないもんな〜。努力し、自己投資した者が得る当然の結果ってことなんだろう。
※週刊ポスト2011年6月24日号
(「ニッポン あ・ちゃ・ちゃ」第149回から抜粋)
毎日新聞に連載され、ドラマ化された「下流の宴」という作品には、漫画喫茶のバイトのままでずっといることに対して平気な若者が出てきて、同棲中の彼女から「ずっとこのままでいいの?」と訊かれるシーンがある。そのままでいいと思う生き方は果たしてどうなのだろうか。非正社員率が毎年向上する日本で、ワーキングプアの人たちが増加していくこととこういう価値観は大いに関連しているのである。
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