新しい恋人
土曜日に購入した新しいパソコンに毎日長時間触れている。まるで新しい恋人に触れるようにである。サクサクと軽快に動くその反応のすばらしさに感動し、このままデスクトップを引退させてそのノートをメインマシンにしたくなる。いや、冬休みは確実にそうなるだろう。寒い仕事部屋ではなくて、暖かい部屋で「こたつでインターネット」になるに決まってるからだ。それを今から楽しみにしつつ、新しいマシンを自分の使いやすいようにカスタマイズしていく過程には、光源氏が紫の上を自分好みの女性にしていったような快楽がある。黒光りするその本体を撫でつつ、少し指紋が付くと布できれいにぬぐい、使う前にはきちっと手を洗ってできるだけキーボードに手あかが付かないようにと配慮し、まるで恋人の身体に触れるようにやさしく文字入力する。
新しいクルマ、新しいパソコン、新しいゲーム機・・・これらの快楽というのは共通するものかもしれない。その機械としての性能に惚れ、それを操る事に快楽を覚え、それを恋人のように慈しむ。もっとも新しいときだけが楽しいのではない。長く付き合った恋人と心が通い合うように、長く乗っているクルマは自分の意のままに走らせることが出来るし、パソコンは自分の思い通りに動く。いや、古いパソコンは思い通りに動かないのだ。重いＯＳやアプリのためにその軽快さをうしなって、すぐにフリーズする生ける屍となって、ついには引退させるしかないというのが古いパソコンの運命なのだ。そんなかわいそうなパソコンの運命を思いつつ、すでに心は新しいマシンにとんでいる。我が家にはそうして私に捨てられた女たち、いや古いパソコンがどれほどあるだろうか。「あなたって浮気性ね」と思われてるのかも知れない。
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