爽やかな六月に
部活動をしている時、教室の窓から入ってくる風はとても涼しくて、6月になったというよりは5月の爽やかさを感じさせた。あまりに涼しくてもう六月になったんだなどという実感が湧かなかったのである。衣替えで生徒たちはみんな半袖の夏服になってるというのに。
立原道造に、「爽やかな五月に」という詩がある。(写真は立原道造→)
爽やかな五月に
月の光のこぼれるやうに おまへの頬に
溢れた 涙の大きな粒が すぢを曳いたとて
私は どうして それをささへよう!
おまへは 私を だまらせた……
《星よ おまへはかがやかしい
《花よ おまへは美しかつた
《小鳥よ おまへは優しかつた
……私は語つた おまへの耳に 幾たびも
だが たつた一度も 言ひはしなかつた
《私は おまへを 愛してゐる と
《おまへは 私を 愛してゐるか と
はじめての薔薇が ひらくやうに
泣きやめた おまへの頬に 笑ひがうかんだとて
私の心を どこにおかう?
なぜこの詩が「五月」なのか。私にはわからなかった。しかし立原道造はかなり五月にはこだわりがあったようで、彼が死の床で、そばにいた恋人の水戸部アサイに漏らしたことばは「五月のそよ風をゼリーにして持ってきてください」だったという。私はかなり立原道造の詩を暗誦していて、この詩もその一つである。私は彼の美しい詩を暗誦することで、その美しいことばのリズムを身につけたいと思っていた。その優雅で音楽的なフレーズを自分も書けるようになりたかったのである。(それがうまくいかなかったことは読者のみなさまは十分におわかりだと思うが)
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