「帰途」田村隆一
はじめて勤務した学校で現代文を教えていた頃、教科書から離れて自分の好きな詩をプリントにして生徒に読ませることが何度かあった。そのときにこんな詩を紹介したことがあった。
言葉なんかおぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きてたら
どんなによかったか
あなたが美しい言葉に復讐されても
そいつは ぼくとは無関係だ
きみが静かな意味に血を流したところで
そいつも無関係だ
あなたのやさしい眼のなかにある涙
きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう
あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるのか
きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
ふるえるような夕焼けのひびきがあるか
言葉なんか覚えるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
ぼくはきみの血のなかにたったひとりで帰ってくる
「帰途」田村隆一
まさかその詩の授業を当時の生徒が覚えていてくれたとは・・・と感激している。その彼が私との関わりを自分のブログに書いてくれた。こちらの記事である。
もしもことばというものがなかったら、我々は自分たちの所有するこの混沌たる感情に名前を付けることも出来ず、もしかしたら痛みや悲しみというものも生まれなかったかも知れないのだ。我々の所有する宿命的な痛みや悲しみは、ことばというものを通じてはじめて自分以外の第三者に伝えることが可能となる。しかし、それを伝えることに果たしてどれほどの意味があるのか。千のことばを尽くすことよりも一滴の涙にその真実があるように、ことばは無力な存在なのかも知れない。自分が毎日こうして文章を書きつづる行為もまた、ひとつの徒労でしかないのかも知れない。それでも自分は書くことをやめられないのだが。
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