父が小学生の頃、遠足で奈良に出かけたことがあったという。およそ雨など降りそうもない日に、担任の教師は、私の父に自分の傘持ちをさせた。そして、若草山でお駄賃としてアイスクリームを買ってくれたという。父が思うに、貧乏で靴も買えずに草履を履いていた自分に、アイスクリームを買って上げる口実を与えるために傘を持たせたんではなかったかと。
成績優秀者はノートをもらえた。ノートなど買えない父は、そのノートをもらうしか他にノートを手に入れる術がなかった。ずっと級長をしていたという父には、実はそうでなければならない事情があったわけだ。